今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

リタルダンド


2011年の舞台作品。主演は吉田鋼太郎。その妻役に一路真輝吉田鋼太郎の息子役で若き松下洸平が出演してる。


CS衛星劇場で放映されたものを鑑賞。Bunkamuraシアターコクーンなどより小さめの劇場。1幕70分で休憩を挟み2幕の尺。タイトル「リタルダンド」には音楽劇という冠が付いている。演出家のG2氏によると「音楽劇」と決定した最後の切り札は息子役の松下洸平のキャスティングがあったからだそう。一路真輝さん、高橋由美子さん、伊礼彼方さんという歌える役者のキャスティングだったので、歌を演出することは考えていたらしいが、最後にプロデューサーを介してキャスティングされた松下洸平の歌唱力を知った時これで行こうと決めたそうだ。


3年前妻を病気で亡くした男(吉田鋼太郎)は知り合って1年ほどの女性(一路真輝)と再婚する。しかし、10代後半の息子はそれを受け入れられない。趣味のギターを持って家を飛び出したままだ。


2人の生活は、前妻の思い出が残る家で始まった。それが6ヶ月ほど過ぎた頃、男に異変が起きる。仕事の約束を忘れる、図形が読み取れない、などなど、ちょっと危ないサインが表面化する。そして、若年性アルツハイマーだと診断されたところで、息子が帰ってくる。


新しい妻と息子、そして、仕事仲間たちに囲まれた暮らしの中で男は少しずつ記憶を喪っていく。


妻の兄は、全てを忘れる男に寄り添う妹の不幸を思い、離婚を迫るが、肝心の妹が言うことを聞かない。妻に前妻の名を呼びかける男。それでも尽くす新しい妻。その姿に心を開いていく息子。


重く現代的なテーマで、楽しくもなんともない芝居。それでも、見続けるのは、これが現代の普遍的な問題であり、見てる側にも強く迫るテーマだからだ。ラストで、息子が家族写真を撮ろうと言い出す。既に遠く過去を置き忘れてきた父とその父を支える名もなき継母と自分。ここに行き着くまでの葛藤を若き松下洸平くんはきっちり演じきる。


一路真輝さんと2人で歌うシーンは元タカラジェンヌを向こうに回して堂々としたものだ。当時は、ミュージカルで舞台に立つことが多かったのか、歌い方はミュージカル俳優そのもので、むしろそれがタカラジェンヌ一路真輝さんとドンピシャだ。


出演時間は他の俳優より少ないとは言え、需要なポイントで登場する。


こういうのを見ちゃうとやっぱり松下洸平くんは、板の上だよな…と強く強く思うのだ。


今の松下洸平くんは舞台となれば、主演かそれに準ずる立場でのキャスティングとなるだろう。ドラマもそうだ。そこに歌手活動まで重なってくれば、どれも1年に1〜2回のチャンスしかない。今後、しっかり仕事の準備の時間を取れる立場を確立するための、今は畳み込む時なのかもしれないが(過去の小栗旬とかね…)、メインキャストだけで攻め込んでくる役者ってのは本当に数少ないと思う。一気に「その時」が来てもこなせるだけの時間と、本人の力量が無ければ終わりだ。


こんなのを乗り越えたのは、パッと考えても小栗旬くんくらいしか思い浮かばない。みんな、それほどあっちもこっちも詰め込まないでしょ?松下洸平小栗旬を目指すのか?


感動のラストシーンを見ながら、そんな事を考えていた。