これまで、宮本輝さんの著作だけはかなりの数、読んできた。
ずっと、ずっと、「蛍川」が1番のお気に入りだった。
ほかにも好きな小説はあったけど、やっぱり「蛍川」を超えるものはなかった…
ところが、「草原の椅子」が発表されて…
ちなみに…私は新聞の連載小説をこまめに読む人間ではなく、「本」の形になって初めて読む人間です!!
宮本輝さんの小説は、いつも登場人物が読み手の私より、生活に余裕があり、ちょっとっていうよりかなりお金に余裕があり、なんていうか、ドラマでも見てるかのような「巧い」話ばっかり…って。
「草原の椅子」は社会的にも成功を修めた男性が養子を育てることになるまでの物語。
読後の爽快感は、今まで感じたことのないものだった。
私には手が届かないほどの社会的な成功を手にした人達が、紙の上で様々な経験をし、様々な思いを語り、私には知りようの無い世界を教えてくれた。
そうだよ!!私と同じような人間の、私と同じような日常を小説に書かれたって、なんも面白くない!!
「草原の椅子」の後、それを超えるものはやはりなかなか登場しなかった…
それどころか、私には面白くない小説が続いた…
特に阪神大震災以降、しばらく経ってからは、明らかに小説の趣が変わった気がした…
そういう思いを抱きながら、数年…
「骸骨ビルの庭」が出版された。次いで「三千枚の金貨」が。
相変わらず、妙に金を持っていて、生活に余裕のある登場人物がガッツリ出てくるわけだが…
彼らが、いかに苦労を重ね、今の生活を手に入れたのか…そこに重点が置かれた「骸骨ビル」
苦労に苦労を重ね、それでも望みを捨てなかった1人の男が遺した物の存在を見つけ出そうと夢を追う「三千枚」
それぞれに強いメッセージがあった気がする…
様々なエピソードを連ねながらも、どちらも人との不思議な出会いという「縁」について語っていた。
そして、今回の「三十光年の星たち」
人生の出会いは、けして偶然ではなく、全てに意味がある。
時も場所も全て意味がある。
もっと早く出会っていたら、けしてその「結果」にはたどり着かない…
その様々な出会いの根本となる「出会い」があり、そこでの学びは一生の財産だ。
自らの人生に「根本の動機」を与えた根本の「出会い」をした人物こそ、自らの「師」である。
そして、自らの人生は「師」の夢を果たすために使う。
「師」の夢を果たすために、また更なる出会いがあり、新しい出会いの中で、弟子の道を行くものと新たな出会いを重ねていく…
宮本輝さんの年齢を考えたら、これからの著作はこうした後世代への強いメッセージが打ち出されて行くのではないか…
かつては、無かったと思う強いメッセージ。
特に最近の3作の中でもメッセージ性は強まっていると思う。
前世だとか、来世だとか、占いとしての側面ばかりが強調されてるけれど、「出会い」の時こそが大切で、まさにその出会いの「縁」に自分の全てをかけることが出来るか…
「偶然」と思うか、「必然」と思うか。
「よく有る事」と思うか、「1度きり」と思うか。
あなたの人生を振り返ってみなさいと肩を叩かれたような気になってしまう小説だ。
ラストがあっさりとまとめられている。主人公達が住む路地裏の道を行き止まりにしている「車止め」。長年の懸案だった、その石の墓標(多分、境界線となる目印の石…)を抜き取ろうと主人公達が動き始めるところで幕となる。
そう、物語はまだ始まっていない!!
何1つ長続きしない30歳の主人公・坪木仁志とそろそろ人生の総仕上げにかかる75歳の佐伯平蔵の「出会い」が語られ、30年後を見よっていう仁志の目標が確立するところで終わり。
仁志は30年後、佐伯平蔵の「夢」をちゃんと全うに叶えてるはずだ。
師匠の「夢」だからこそ…