今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

物語のおわり


寒かったり、暑かったり(気温の観測が始まって以来、12月に東京で24℃を超えたのは初めてらしい…)の異常気象に打ちのめされ、出かけるのも億劫になって、とりあえず、図書館から借りてきた本を開きました。


そして、一晩。


相変わらず、お見事なストーリー展開に、いやいやあっぱれ(どこから目線だ‼)と一気に読んでしまった。


「物語のおわり」湊かなえ著(朝日新聞出版)


以下、感想…


















まず、私小説的なお話が始まりだ。このお話の主人公は、山間の田舎町に暮らす中学生の絵美。彼女の両親は街で評判のパン屋を営む。


お客さんを大切にする両親は休み返上で店を切り盛りするものだから、町を囲む山を越えたことが無い少女。


毎日、店の前のバス停から山の向こうの隣町まで登校する高校生は、決まってハムロールとハムサンドを買っていく。


彼にハムさんと名をつけて、自分の知らない山の向こうに通う青年に憧れを抱いていた。


登校前に店番を手伝う主人公。ハムさんのつり銭を間違えたことに気付き、両親に怒られる前にこっそり彼の帰りを待ち、手渡した。


このことをきっかけに距離が近づく2人。


その後、月日は経ち、ある思いを抱いて北海道大学に進学したハムさん。主人公は、ハムさんの帰りを生まれた町で待っている。


互いに手紙のやり取りをする中で、主人公は小学生の頃に友人から勧められ、書き始めた小説に再び挑戦し始める。


ハムさんへの手紙は、彼女の小説になった。そして、ハムさんはそれを楽しく読んで褒めてくれた。


こうして、離れ離れの4年間を過ごした2人は、ハムさんが地元で教師になるために帰ってきたのを機に婚約をし、主人公はパン屋を継ぐことになった。


ところが、このタイミングで小学生の時に彼女に小説を書くことを勧めた友人から、東京で流行作家の弟子として住み込みで勉強しないかと誘いがある。


成功するかどうかも分からない不安な未来。主人公には夢のような誘いだが、両親や婚約者のハムさんは当然反対する。一時はその反対に納得し、上京を諦める主人公だが、やはり夢への道を忘れられない。


そして、着の身着のまま駅に向かう主人公。彼女が駅に着いた時、そこにはハムさんがいた…


ここまでが、この湊かなえさんの「物語のおわり」の第一章。湊さん、お得意の連作小説。その始まりは、結末の書かれていない小説だった。


そして、この小説はワープロ打ちされ、紐で綴じただけの「原稿」の形で、旅をすることになる。


まずは北海道に向かうフェリーの中で、10代の少女から一人旅の妊婦さんに。


そして、妊婦さんは北海道の旅先で出会ったカメラが趣味の青年に。撮影旅行中のその青年は自分の夢とちょっと違う道を進もうとして恋人と分かれた女子大生に…


と数人の手を経て、最終的に北海道に旅行に来ていたハムさんの手元に。


こんな偶然ってあるの?


第一章の小説の最後の舞台はハムさんが就職した直後だった。そして、原稿がハムさんの手に渡ったのは、既に仕事を定年退職した時だ。


この「からくり」の全ては最後の章で明かされる。いやいや、素晴らしい。


いろいろと推理しながらね。元の小説は誰が書いたのかとか、小説の旅はどういう意味なのかとか…


小説を手にした人々は、みんな何かしら人生の岐路に立ってるわけで、結末の無い小説を読み、自分なりの結末を考えることで、自分の今後の道を見出していく。


旅先での出会いが新たな第一歩になるお話。


湊かなえさんの小説ならではの展開と読みやすさ。かつての後味の悪い救いようのない結末ではなく、「最近」の湊かなえさんの小説。


オススメです。


ハムさんと絵美ちゃんが、おじいちゃんとおばあちゃんになっても、ステキな人でいることがとっても嬉しい小説。


どうぞ、お楽しみあれ。