今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

もうひとりの息子


是枝裕和監督の「そして父になる」と同じシチュエーションだと話題になった本作。


でも、こちらは既に昨年の東京国際映画祭でグランプリ(正式名は知らないが、とにかく1位を穫った)の映画なのだ!!


こっちの方がまぁ本家なんだろう。


っていうか、どちらも当事者にとっては不幸な出来事を語るワケだが、同じ目線でとらえるのはどうだろう。


さて、来場者プレゼントのオリーブオイルの抽選にもはずれ、残念無念な思いを抱えながら、帰宅した後、すぐに感想を書けなかったのはあまりにも思った通りの結末で、ある意味、この映画で感じたことは全てに通じる普遍的なものなのかと…


みんな、知ってることなのに、それを行動に移すことはいかに大変かということ。


心に従って生きる…


それが許されない世界はまだまだたくさんあるのだという現実。それが、いつまでも心を引っ張る。


イスラエルパレスチナ西岸地区に住む2組の家族。


彼らには、両家ともに18歳の息子がいる。


イスラエル側の息子は軍人の父を持ち、軍でそれなりの立場にある父を見ながら、まるで違う道を目指している。彼の受けた兵役検査で、両親と彼の間に親子関係が無いことが判明する。


18年前の事情を調査した病院は、始まったばかりの湾岸戦争の喧噪の中で、新生児の取り違えが起こったことを認め、もう一方の家族を紹介する。


なんと、塀に囲まれたパレスチナ西岸地区に一方の家族はいた。


子供たちは18歳。大人として、現実を受け入れることが出来る。親の思いだけでどうにかして良いものではない。


そうやって、現実をしっかりとふまえ、互いを受け入れようとする母親たち。


自分たちの置かれた政治的立場を基本に考え、家族や血縁などを考える前に拒否反応を起こす父親たち。


「母は強し」


小さな妹たちもそれぞれに新しい兄と塀の向こうの新しい家族を受け入れ、希望を口にする。


女性はどこにいてもいくつになっても基本は「人間」なんだなぁと思わせる。


彼女たちが大人になったとき、公平な心で受け入れた新しい世界のことを忘れないでいてくれたら、世界はまた一歩平和に近づくのだろう。


そんな希望を抱かせてくれる少女たちの歩み寄り。


そして、取り違えられた息子たちが18歳という大人に差し掛かる年齢だったことがかえって、良かったのではないか…


小さなうちなら親の判断が大きく結果に影響したと思うし、仮に当面は上手く対処できても、子供たちが意思を持ち始めた時、さらにもう一度試練を乗り越えなければならないから…


大人として歩み始めた時期に、新しい世界を見、新しい家族を得、自分の足下を見つめることが出来た彼らが道を誤ることは無いだろう。


重いテーマで、複雑な結果を生み出しかねない題材を使って、語り合うこと、歩み寄ることの大切さを伝えているのだと思った。


それは、なにもこの家族にだけ通じるものではなく、あの世界で生きる人々に一つの道を示しているのだと…


こんなテーマを淡々と映し出す作品は、見ておくべきだと…