今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

チャイルド44


トム・ハーディ主演で7/3に日比谷TOHOシネマズみゆき座で公開になった「チャイルド 44 森に消えた子どもたち」の原作。


実は公開前に読もうと思ったけど、なかなか読み進められなくて、結局先に映画を観ちゃった(汗)


上下巻の長編で、子供が標的になる連続殺人の影が見え始めたところで上巻が終わるというなんとも前置きの長い小説で、ちょっと息切れ状態だったので、間に映画を観たのは良かったかも。


原作のある映画ではいつもどちらかに軍配をあげてしまう私だけれど、今回は映画は映画、小説は小説で別物に近い感覚でどちらもそれぞれ面白かった。


映画は限られた「時間」があるので、原作から大きく端折られた部分がある。


そこは主人公レオにとっても犯人にとっても、実はとても意味のある部分なんだけど…


でも、映画は映画でちゃんと完結してると思う。小説のラストを知らないままで映画を観て正解だったと思った。


それでは、映画とは別物(笑)の小説の感想を。


チャイルド44トム・ロブ・スミス(新潮文庫)





















時はスターリン政権下のソ連。支配する者の都合で、人の命は簡単に奪われていく時代。


疑われること、それは即、命を失うことに通じる時代を背景に、数年間で44人の子どもを手にかけた犯人を追跡する元国家保安省捜査官レオの姿を追う。


戦争の英雄として「プラウダ」の一面を飾ったことのあるレオは国家保安省で出世街道を行くエリート捜査官だ。


教員をしている妻は美しく、誰もが羨む2人だった。


しかし、何事も国家を主として考え、国家の望むものこそ全てと疑わない夫に対して、妻はその意に沿わないことが即、反逆と判断され、夫にとって自分の代わりはいくらでもいるのだという事実を骨の髄まで知っている。


そんな目に見えぬ溝を自覚していない夫と現実的な妻とが、夫の部下の嫉妬からくる策略にハマり、職を追われ、反逆者として逃亡することになる。


直接の彼らの容疑は、国家が既に解決した事件への疑念を持ち、勝手に捜査を始めたことが反逆とされたからだ。


ソ連という理想国家にあって、「殺人」など起こりえない。仮にあったとしても、それは既に社会的に認められない人物によるものだという国家の思想。


鉄道路線に沿って、駅のある街で起きた子供が被害者となった殺人事件。ある物は事故として処理され、ある物は知的障害者や前科者がろくに捜査もされず犯人と断定された上処刑され、ほとんどの事件が解決されていた。


しかし、それらの被害者にはみな共通のサインがあった。


犯人を突き止め、これ以上被害を拡大させたくない。ただそれだけの思いに突き動かされ、行動するレオと妻のライーサ。


冷たく凍りついていた2人の溝は少しずつ埋まり、事件を追う過程で互いを強く信頼し行動を共にするようになる。


元の職を追われ、互いに誰の助けも得られない、なんの後ろ盾もない立場になり、もう世界にはレオにはライーサ、ライーサにはレオしか生きる寄る辺が無くなった時、本当に必要な人の存在に気づく。


映画でも強く印象的に描かれていたが、この小説でもその夫婦の再生が基本となっている。


ただ、小説では少しずつ語り合い、助け合う中で互いの信頼を得ていくのだが、映画の方は時間との闘いだから、当然もっと分かりやすく描かれていく。その違いをどう受け止めるかだろうなぁ。


その後、中央政府のやり方に個人レベルでは誰も賛同していないことが地方の街を逃亡していくなかで分かってくる。結局、中央のエリート部署にいたレオには「現実」が見えていなかったのだ。


ライーサの方が中央にいるレオに恐怖を抱きつつ夫婦を演じてきた過去があるだけにずっと冷静に対処することが出来ていた。2人だからこそ、なし得た逃亡劇だ。


そして、映画では全く違う形で描かれたレオの幼少時代。小説はその部分を最後に持ってくる。


映画と同じ結末を迎えるラストではあるが、その過程で語られる犯人とレオの関係。


これが、映画と小説の印象を大きく変える物になっている。


犯人の動機が明確になる小説の方が、レオが自分の命をかけてまで、なぜこの事件に心を囚われていくのか説得力はありそうだ。


それでも、上手い言い換えを施しながら、ちゃんと同じ着地をする映画にも見る物は多い。


同じ事件を題材にしながら、小説はレオの抱えてきた物の帰結、映画は夫婦の再生にポイントを置いている。


珍しくどっちも面白かった。


ただ、小説は少し長い。説明が多い。最初のエピソードもラストに繋がるものではあるが、描写が細かくて、想像の余地が無い。書き込まれていると言った方が良いのかな?


文章以外に想像力を働かせて、思い描く必要が無い程に書き込まれている。


そういう意味では、ほぼ規定されている原作をあちこち上手く繋ぎ合わせた映画はお見事という他はないと思うのだが…


ところで、著者はこれがデビュー作というのは恐れ入る。


実際にソ連で起きた事件をモチーフに書かれたそうだ。12年間で52人の子供を殺した連続殺人犯。小説と同じように当時の政治状態の元でこぼれ落ちた事件だったのだ。


暗い混迷した時代を舞台に謎解き、犯人追求を孤立無援の中で進めるお話。楽しめると思います。


善良な人々とそうじゃない人々がちょっと極端すぎるかとは思いますが…(笑)