私的個人キャンペーン絶賛開催中の読み返し「合田雄一郎」第2弾(汗)
かつて、照柿色の表紙の単行本で読んだきりの本作、文庫版下巻の最終ページには全編改稿の上、文庫化されたとの表示が…
やっぱりねぇ〜。
読んどいて良かったわぁ〜
以下、感想…
「マークス」事件の後、合田雄一郎が所属する捜査一課強行犯第7係が出向した八王子署でのお話。
タイトルの「照柿」とは、雄一郎が子供の頃、生家のあった大阪で見た夕日に染まる路面電車の飛び込み事故の現場で目にした熟した柿の色を思わせる臙脂のような独特の色のことだ。
この色が、この小説で展開される物語を象徴する。
果たして、あの色は現実に目にした色なのか。彼の記憶の奥底で揺れ動くその色は確かに見たはずのものだ。しかし、そこに繋がる一連の記憶が既に彼の中で不確かなものになっているのも事実。
雄一郎の記憶の奥深くに厳然と存在しながら、18年もの間1度たりとも記憶の淵に浮かぶことも無かったその色に纏わる人々と彼が担当する事件との因縁深き物語。
面白かった。ホントに。
悲しいかな、この「照柿」は映像化されたのは三浦友和さん主演のNHKドラマだけ。
「マークスの山」も「レディ・ジョーカー」も映画化され、WOWOWでドラマ化もされたのに…
作者からお許しが出なかったのが原因か!?
いつも、合田雄一郎という人は1日24時間では足らないくらい忙しく動き回って、事件の真相に迫っていく。
しかし、それは既に長いこと、刑事の仕事が体に染み付いてしまった、いわゆる習い性のようなもので、考えるより先に体が動き、言葉を発しているらしい。
そんな刑事そのものの彼の内面はいつも些細なことに揺れ動き、その些細なことを聞き流していくことでなんとか均衡を保っているかのような不安定なものだ。
その観念的な部分が細かく丁寧なのが、高村薫さんの小説の特徴なのかなぁ。
人の生死が、彼の仕事を左右する。そこにどんな感情移入もせず、ただ、事件解決のための「機械」になって対処していく。
その彼を支える「心」の部分を読んでいく作業が楽しいというか…
なぜ、1人なのか。なぜ、彼は誰とも心を合わせられないのか。実は、1人確固たる自分を築いて他を寄せ付けない自分がいたということにやっと気づくのが本作だ。
事件解決とそこに行き着くまでの逡巡と、合田雄一郎の心の中を見られるこの小説は絶対面白い。