今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

マンチェスター・バイ・ザ・シー


久しぶりにEBISU GARDEN CINEMAで鑑賞。スクリーン1の182席が満席でした!!さすが、主演男優賞受賞作品。


小さな男の子と楽しげに船から釣り糸を垂らす男。船は彼の兄のもので、舵取りをする兄に代わり、甥っ子と釣りに興じている男。


彼には3人の子供がいる。子供を愛する男。しかし、彼の現在の生活には妻や子供たちの影が無い。集合住宅の管理が仕事で、それこそ、外の雪かき、蛍光灯の付け替え、トイレの詰まり、水道管の漏れなどアパートの住民の困り事を全て引き受けるなんでも屋だ。


無愛想で必要最低限の会話しかしない彼の現在が、幸せだとは思えない。そんな彼の元に1本の電話が入り、彼は生まれ故郷へ戻っていく。


彼の帰還の理由。それは人望も厚く、彼にとっても頼りにしていた兄の突然の他界だった。以前持病が発覚し、すぐに死ぬことは無いが、寿命は限られていると宣告を受けた兄。その宣告通りに彼は死んだ。


酒に溺れ、神経を病んでいたと思われる妻とは、とうに離婚し、どこにいるか行方不明。唯一の親類も兄の息子との折り合いが悪く、故郷を出た。兄が死んだ以上、その高校生の息子はたった1人になってしまう。


学校や友達、父親の形見の船。その全てがマンチェスター・バイ・ザ・シーにある。どれも手放したくはない。だけど、この町で1人で生活することは出来ない。


不幸な事件の結果、妻と別れ、町を逃げ出した弟に息子を託すしかない兄の選択。息子が成人するまでの後見人として弟を指名した遺言書を残し、それに絡むお金まで用意した兄。彼はいつ来るか分からない最期の日を見据えて、弟を立ち直らせるための手はずを整えていたのだ。


兄の葬儀の話が具体的になってきた頃、弟の身に起きた事件が、回想として語られる。なんと辛い出来事なのか。妻との関係が壊れていったのも理解できる。


驚いた事に、別れた妻は同じ町に暮らし続け、新たに家庭をもっていた。女って凄いな…と。正直、開いた口が塞がらないっていうのは、こういう事かなと。彼女が町にいる限り、病身の兄がどんなに手はずを整えようと主人公に居場所は無いだろう。それでも、この町へ帰るように仕向けたのは、もう心の荷物を下ろすように伝えたかったのか…


しばらく、同居することになった叔父の部屋で、彼の愛した子供たちの写真をじっと見続ける甥。彼に叔父の心の痛みが伝わっただろうか。


オープニングで兄の操縦する船で釣り糸を垂らしていた、かつて何も枷の無かった弟と兄の息子。ラストで高校生になった甥と同じように時間を共有する主人公の姿が登場する。いろんな経験と時間が積み重なった2人の新たな関係がゆっくりと動き出す。


既に大きな事件は過去のもので、それを引き摺って生きる普通の人の普通の生活。どんなに足掻こうと時は経つ。その「時」が人をどう癒していくのか。その端緒を観る。