新選組関連本を図書館で予約して読み続けていた私に新しく予約本が確保できたと連絡が来た。既に予約した本は手元にあるし、あれ?と。
そしたら、以前、新聞広告で紹介されていて予約した本が!
『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』鴻上尚史 著(講談社現代新書)
「特攻隊」は海軍の人間魚雷に対して、陸軍の体当たり部隊のことだと思っていた。これまで、特攻隊を描いた映画など観てきたはずなのに、きちんと頭の整理ができていなかった。
「神風特攻隊」は海軍の飛行部隊。本作に登場する「不死身の特攻兵」は陸軍のパイロットだった。
当時の軍の状況を反映するかのように特別攻撃隊についての対応は海軍の方が優っていたようだ。戦後資料が残されていないなどあり得ない話に思われるが、陸軍はまさにそうだったらしい。。。
不死身の特攻兵こと佐々木友次さん。彼は特攻兵として、9回出撃し、9回生きて帰還する。
当時、上官には絶対服従の時代。その中で、良い(この場合、互いの思いが理解できる…という意味の)上官に出会い、彼は自分の信念を貫くことを選んだ。そして、数々の危機を乗り越え、戦果を上げ、終戦を迎えた。
9回出撃し、9回帰還したのは、けして逃げたワケでも無く、最後まで冷静さを欠かさなかったワケでも無い。その時その時を必死に生き抜いてきただけだ。あれこれ考える、そんな状況ではなかったのだと言う。
時にはほんの数m離れた場所にいた仲間が亡くなり、自分はかすり傷1つ無く生き延びることもあった。それをどう受け止めたら良いかなど、当時は考えられなかったに違いない。それほど日々逼迫していたのだ、なにもかも。
既に92歳の高齢で病院のベッドの上で著者、鴻上尚次氏のインタビューを受けた佐々木さん。
糖尿病で目を患い、既に失明していたようだ。彼は相対する鴻上氏の顔が見ることができないことで、インタビューを打ち切ろうとする。
鴻上氏の核心に迫る問いかけに佐々木さんは戸惑ったのかもしれない。相手の様子が分からない以上、話すべきではないと。
当時の不埒な上官への思いを問い質しても、佐々木さんは「そういう時代」だったことを理由に上官に意見するなどできない時代だったと答える。
本作にもその名が登場するが、本来責務を負うべき上官たちがそれを果たさない現実を戦後何十年も経った今でも、糾弾する素振りを見せず、鴻上氏の望む言葉を発さない佐々木さん。
そこには多くの思いがあるのだろう。特攻を経験した者とそうでない者の温度差、多くの仲間を亡くした現実、そして、生きて帰った自分。当時20代前半の彼には抱えきれないものがあったに違いないが、鴻上氏とのインタビューの中で、それを言葉にすることはなかった。
空への憧れ、飛ぶことの喜びを語る佐々木さん。戦地での地獄のような日々を思うより、子供の頃からの夢を語ることを選んだようにさえ感じる。
佐々木友次さんという人の存在を知り、特攻隊について調べ始めた鴻上氏が、自分なりの特別攻撃隊への思いやそれらを推進した人々、またそれらを生んだ時代について考察した本作。
本作の内容が良いか悪いかというより、貴重な戦争体験を知る意味で読んでみると良いと思う。
鴻上尚次さん。舞台演出家として有名で、ずっと前に、学生運動の時代の若者たちを描いた芝居を観に行ったことがある。友人に誘われるままに観劇したので、正直、あんまり意味が分からなかった。そんなことを思い出した。
舞台演出家と言うことは、自ら台本を書くこともあるのだろうから、文章を書くのはお手のものだろう。本作は全体として読みやすい文章で、引用も分かりやすい。