今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

闇の奥


ブラッド・ピット主演映画「アド・アストラ」にやたらと感動した私。この映画はあの名作「地獄の黙示録」を思い起こさせるシーンのある映画だと聞いた(私にはよく分からなかったけど…汗)。そして、その「地獄の黙示録」もある作品を翻案とする…と聞いて、その翻案小説に辿り着く!


「闇の奥」ジョセフ・コンラッド 著/黒原敏行 訳(光文社古典新訳文庫)


以下、感想。。。
















最初の舞台は、イギリス。とあるグループが船に乗っている。彼らは友人なんだろう。それぞれ職を異にして、時折集まっては、誰かの語る来し方に耳を傾ける。


今回は船乗りとしてコンゴに赴いたマーロウの話を聞く。船乗りとしての仕事がなく、いろいろと顔が広い叔母のコネで、なんとか当時象牙の売買のためにコンゴに社員を送り込んでいた会社で船長の職を得る。その辺りから、彼の語りは始まる。


そして、現地へ出向き、彼の請け負った仕事は、単純に象牙の運搬だけでないことに気づき始める。


コンゴの何か所かを拠点とした象牙の売買。各部署での扱い数に大きな違いがあった。そのトップを行く成績を残すのはクルツという男が仕切る場所。彼と接した人間はみな、彼をたいそう褒める。彼は現地の過酷な状況下でも、人間的にも素晴らしく、仕事もできると…


地元の部族との軋轢や働き手として集められ、酷使される黒人たちの様子。出港前に健康診断で精神面でのチェックを受けた理由がマーロウにも納得いく現地の悲惨な状況。その中で、飛び抜けた業績を収めるクルツという人物にマーロウの興味を引かれていく。


そして、奥地へと船を進める中、やっとクルツに出会う。このクルツ。愛する婚約者を残し、単身コンゴの奥地にやってきて、その人柄から人々を惹き付け、それを象牙の買付けに利用し(ちょっと言葉は悪いけど…)、誰も彼を諌める人のいない環境のなか、いつしか独裁者的な強権を振るうようになり、自分自身のコントロールが難しくなっていった…


その彼をそこから引きずり出すのがマーロウの仕事だったわけだ。本の裏表紙の簡単なあらすじには「救出」と書いてあったが、はたしてそうなのか…


マーロウの語るコンゴでの仕事。友人たちはほとんど声を発せず、聞き入っている。読み手の私も同じだ。マーロウの語るコンゴの風景がそこに見えてくるような感触。今で言えば、文庫としてはとても分量の少ない方だと思うが、ずつしりと重みのある話が続く。


マーロウの記憶に強く焼き付けられたクルツのこと。コンゴでの強烈な光景が後押ししているのは確かだが、それ以上に、クルツの死を婚約者に伝える際に彼の最期の言葉を偽ったことが大きく影響しているように思う。自分の仕事に関して真実のみを語ったマーロウ。ただ1つの相手を思いやる嘘が心に引っかかり続ける。


自分の知らない地域の、知らない生活環境、そこに足を踏み入れるだけで、得体の知れない恐怖が心を蝕む。この底に秘められた恐怖心が物語に後々まで影を落とす。


地獄の黙示録」…また見てみようかな。