今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

再会の夏


久しぶりのシネスイッチ銀座。今や、シネスイッチ銀座もネット予約が出来るようになった。でも、今回は慌てなくても大丈夫そうだったので、窓口で…これもひとえにテアトルシネマグループの会員割が可能になったからだ。


同じテアトルシネマグループのヒューマントラストシネマ有楽町では、ケン・ローチ監督の新作「家族を想うとき」が絶賛上映中で、そちらも気にはなったけれど、席の埋まりもはやく、ぎりぎりまで予定が立たない人間にはちょっと無理。


ということで「再会の夏」を選択。結果、良かった。


オープニングから物語の背景については全く説明がない。石造りの堅牢そうな建物の前で吠え立てる犬。黒くてシャープなその犬は吠え声も大きく、建物から出てきただらしない感じの大男が黙らせようと犬に石を投げつける。


この建物は何なのか。犬が知り合いでもなさそうな大男のいる建物のそばを離れないのは何故なのか…


話が進むに連れ、謎は解けていくのだが、それは誰に対しても誠実に生真面目に対応する軍判事の少佐のおかげだ。


時は第一次大戦後。戦地に送られた男たちが復員し、町が少しずつ元の姿に戻ってきたころの話。犬が側を離れない堅牢な建物は囚人を収容する施設だった。戦争が終わり、この施設もほとんど役割を終えているが、たった1人ここに来て収容された人物がいる。犬は彼の飼い犬だ。主人の側を片時も離れないつもりらしい。それは大切な約束があるから…


派遣されてきた軍判事は、たった1人の収容者の嫌疑を検分するのが仕事だ。ところで、収容された男はいったい何をしたのだろう。


軍判事とのやり取りから、彼は戦場では最前線で戦い、その働きが認められて叙勲を受けたことが分かる。戻って来た町には恋人もいる。そんな彼がなぜ…


軍判事の公正な聞き取り調査に証言者はみな少しずつ事の次第を語り始める。


ほんの少しの行き違い、言葉足らずが大きな誤解を生み、心に傷を残す。普段の生活でさえ、人と心が通じなかった結果、裏切りにあうと大きな傷みを伴うのに、戦時中となれば、その傷はもっと大きな傷みとなって返ってくる。


戦争の最前線では過酷な日々が続く。愛する者と離れ離れの中で、国のため、家族のためと思い留まり戦う兵士たち。その張り詰めた心を精一杯奮い立たせて戦場に立っている。戦いたくないのに…


それほどの思いを抱えている彼らを平気で裏切る戦争の正義。


そうして抱えた心の傷が、愛する者さえ信じられなくさせてしまう。


戦争は何も生まない…


収容された男は、けして納得のいく受賞ではない自分に与えられた勲章を人前で自分の犬に授与すると言ってその首にかけてしまう。それが不敬に当たるとして収監されたのだ。


事件の全貌が分かるのはもう本編後半だ。人生のアドバイスを男に与えて、軍判事は町を後にする。


戦争が人の心に及ぼす様々な問題を淡々と追っていく。ある意味、静かなる反戦映画だ。