今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

彼らは生きていた


あの「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督の作品。これはジャクソン監督の執念を見る、感じるドキュメンタリー映画


私は「ロード・オブ・ザ・リング」は原作も未読だし、映画も見ていない。「ホビット」は全部観たけど…まぁ、とにかくその位しかピーター・ジャクソン監督の作品を知らないので、本作は内容はともかく、ちょっと新鮮な感じ。


今回は公開前たった1回の貴重な試写会に参加させてもらった。会場は渋谷のイメージフォーラム。前から名前だけは知ってたけど、こんなところにあったのかと思う場所にある映画館だ。


ユーロスペース的な映画館を想像していたが、実物はもっとこじんまりした映画館だった。ホームページの写真だともっと大きなビルなのかと…(汗)。外観もこじんまりしてるから、中も当然こじんまり。スクリーン自体は100席ある素晴らしい造りだが、通路もロビーもギリギリの建物で、狭いところが苦手な私は開場前の待ち時間も具合が悪くなりそうだった(涙)。イメージフォーラムが公開館だから仕方ないのかもしれないが、大勢が一気に押し寄せる試写会の開催には向かないと思う。


さて、本編。題材は第一次世界大戦のイギリス軍の様子だ。軍による資料映像と音声データが残っていたのは貴重。それらの膨大な資料を丹念に編集したのが本作だ。第一次大戦には監督の祖父も従軍したそうだ。そうした現場を経験した人の体験談を聞いて育ったに違いない監督。そして、上映前のトークショーで聞いたのだが、監督はとにかく根気のいる作業を厭わず作品を作り上げる人らしく、その監督の育った環境と方向性とが上手く合致した結果の本作だと思った。


何万人もの人が命を落とした激戦地でドイツ軍と戦う最前線。戦地を記録した画像に生還した兵士たちの生の声が重なる。証言者の殆どが出征時は10代の青年だった。なかには少年と言って良い兵士もいた。18歳以上が一応の志願目安だったらしいが、彼らは年齢に達していなくても、国を背負い、国のために戦う兵士となって戦地へ向かうことに一種の憧れのようなものを抱き、勇んで志願した。


世間もまだ知らない年齢で厳しい訓練を耐え抜き、最前線に送られる。彼らは人生の全てを戦地で学んだ。けして後方の安全な町では知ることのない非常に多くの人の生き死にを目の当たりにする。すぐ隣の仲間たちが一瞬で命を落とし、それらに悲しむ間もなく、突き進むのが日常になっていく。それぞれの陣地にいる時、ドイツ兵は排除すべき敵だが、1度捕虜になり連行したら、彼らも命令で戦っていたのだとむしろ親近感を覚えていく。


それらの戦地の日常は当時モノクロで記録されたが、様々な資料を当たり、丹念に色彩を当てた映像が本作の中心だ。残酷な塹壕内部の様子も隠さず流されていく。それが戦争の現実だからだ。当時は兵器も今ほど近代化されておらず、最終的には接近戦、いわゆる白兵戦だ。大砲は遠くから敵の陣地を目指して投下されるが、今のように情報通信の発達していない時代。前線の動きも分からず、大砲の弾が飛んでくる。味方の砲弾が飛ぶ下で白兵戦に挑む兵士たち…


帰還兵たちの証言を裏付る映像の無い場面は証言を元にした絵が登場する。戦地での厳しい日常を生き残った若者たちだが、帰還した後にも苦しい現実が待ち受けていた。一気に帰還した若者たちには職が無く、戦争に行ったことを避難された。戦地で捕虜になったドイツ兵の方がよほど理解し合える存在だった。


その矛盾に苦しむ帰還兵たち。彼らの生きた声は観た者に何を思わせるだろうか。


利害の衝突する国を相手に命をかけて戦いながら、国の人々は彼らを受け入れようとしない。こんな矛盾に耐えられたのだろうか。戦争は何も生まない。まさにそう感じる映画だった。


トークショーで聞いた話だが近く公開される映画「1917」、こちらはサム・メンデス監督作品。やはり第一次大戦を描いており、サム・メンデス監督も祖父が従軍したのだと言う。歴史の証言者を身近に育った映像作家が自分の手法で貴重な証言を残す。これはとても大切な事だし、世代的にももうギリギリなのかもしれない。


貴重な時間をありがたいと思った。