今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

リンドグレーン


今年最初の岩波ホール。昨年も岩波ホール上映作品は結構見逃してるので、年明け第一弾だけは絶対観ようと思ってた。


でも、来月早々には別の映画が封切られるので、意気込んでた割にはギリギリセーフ(汗)。


というのも、今日は映画「リンドグレーン」の翻訳監修をされた菱木晃子さんの講演会に当選したので、菱木さんのお話を聞く前に映画を観ておこうと…


スウェーデンの田舎の村で農業を営む両親の下で育ったリンドグレーン。映画の中ではファーストネームのアストリッドと呼ばれている。


彼女は子供の頃から奔放で、封建的な教会中心社会の中では目立つ存在だった。だからと言うわけではないが、農業の手伝いの傍ら、地元新聞社で働くことになり、そこの社長兼編集長と恋仲になる。


この社長、アストリッドの友人の父親で、当然ながら親子ほど年も違うのだが、前妻との離婚を控えていることを知り、この男との恋に溺れていく。そして、その離婚も泥沼になり、訴訟にまでなりそうだという頃になって、アストリッドは体調の変化に慄く。


封建的な田舎の狭い社会で、女が1人子供を産むなど許されない。なかなか離婚できず、アストリッドとの仲に気づいた妻から姦通罪で訴えられそうだと男から聞いた彼女は、男が刑務所に入ることだけは避けたいと隣国デンマークまで行って、秘書学校に通う傍ら未婚女性の出産を支援している女性弁護士の下で子供を産む。


働きながら、男の離婚が成立することを待ちわびるアストリッド。その間、息子のラーシュは女性弁護士の下に預け、必死で働く。


男の姦通罪の判決が下ったが、男は収監されもせず、罰金刑で済んだ。その額は男の収入からすれば、さほど痛くもない額だったことを知り、そんなことのために命をかけて産んだ息子を他人に預け、たまに会いに行っても懐くこともなく成長する息子の現実を見せつけられてきた。あの苦しみは何だったのだろうと一気に気持ちが冷めていく。


懐かない息子への思いが募り、どうしょうもない不安に苛まれるアストリッド。そして、運命は動く。息子を預ってくれた女性弁護士が病に倒れたのだ。アストリッドは意を決して、息子を引き取り、1人で育て始める。


奔放故に大きな苦労を抱え込み、小さな息子に大きな環境変化を押し付ける形になったアストリッド。最初は微妙な言葉の違いで意思の疎通もままならない。そんな息子が病気になり、誰の助けも無い中でただ悶々とする姿は、いくら自業自得とは言え、胸が締め付けられる。


そして、同じ職場の、後に夫となるリンドグレーンの手を借りて、医師の手当を無償で受けることができた。


何も知らない世間知らずのアストリッド。慣れない環境で体調を崩し、眠れないラーシュ。互いにどうしたら良いのか分からない。特にラーシュにしてみたら、それまでの生活が一切変わってしまうのだ。子供心に大きな不安を抱えたはずだ。それを知りながらも、聞き分けのないラーシュに苛立ち、戸惑い、心をすり減らしていくアストリッド。眠れないラーシュに語り聞かせる物語が2人を本当の親子にしていく。


その後、ラーシュを受け入れた田舎の家族の元へ。


この辺りが今一つ私の感覚だと理解不能なのだが、田舎にはラーシュの父親がいる。アストリッドの友人もだ。そこに息子を連れ帰り、男とその娘もやってくる日曜の教会に家族で出かけていく。気まずさはないのだろうか。ん〜……外国は未婚率も高く、離婚率も高いと聞いたことがあるけど、それはこういう感覚にも現れてるのかな。


ラーシュ役の子役ちゃんが名演だ。成長と共に子役ちゃんも変わっているのだろうが、それが違和感なく受け入れられるし、なにより、どうして良いか分からなくなってただ聞き分けなく泣き出す様子など、あまりにリアル。お見事としか言いようがない。


終映後、菱木さんの講演会で、リンドグレーンはことさらラーシュの存在を大切に思っていたらしい。ラーシュが若くして亡くなった時、なにより悲しみにくれたという。本当の親子でありながら、様々な事情に縛られ、離れ離れに暮らし、辛く苦しい思いを越えて絆を育んだのだ。ラーシュの存在が心の支えになったことは容易に想像できる。


児童文学の世界で知られたリンドグレーンが描く子供に夢と希望を与えた小説の数々。子どもたちはその作家に紆余曲折あったことを知らない。ある意味、知らなくても良い内容ではあるな…