今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

我らが少女A


「太陽を曳く馬」がとてつもなく、衝撃的で重いお話だったので、読むのに一苦労も二苦労もして、でもズシリと心に響く合田雄一郎の事件だった。


これで、しばらくは合田雄一郎には会えないかと思ったが、「冷血」で見事復活。どちらかと言えば、こちらの方が圧倒的に合田雄一郎らしい小説だった。


そして、久方ぶりの彼はどんな事件に出会うのか…


「我らが少女A」高村薫 著(朝日新聞出版)


以下、感想。。。















図書館で長い待ち時間のうちにすっかり失念していた本作。果たして、内容はって感じだけど。


高村薫さん、作風変わった?


登場人物のそれぞれの時間をそれぞれのペースで繋いでいく展開。互いに関わるより、それぞれの「その時」を平行して紡いでいく。登場人物たちのそれぞれの時間はあまり長くない。だから、あちこちに話が転がり、私的にはとても読みにくく、好きじゃない展開だった。だから、本当に読めなくて…


「太陽を曳く馬」も一度は挫折したので、本作もそうなる予感。だが、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大を受け、東京都に「緊急事態宣言」が発令され、人の集まる公共施設の多くが閉鎖となり、図書館もご多分に漏れず一切の業務を停止したため、返却日がほぼ1ヶ月先に延期されたのだ。そのおかげで、なんとか読み切ったのだ(なんだか、申し訳ない…)。不要不急の外出自粛の巣ごもりの時間をどうにかやり繰りし、本当にやっと、やっと読み終わった。


合田雄一郎は、数々の現場を踏み越え、とうとう警視になり、警察大学校で教官になっていた。彼は警察庁からの出向ではないし、大学卒業後一般の警察官として、稀に見る実績を積んだ。警視庁捜査一課の主任として4件の殺人事件に直接関わり、そのうち死刑判決の出た事件でも手腕を奮った(多分…)。時に強くダメージを受け、一線を退き、所轄の現場に戻ったこともあった彼に教官とは…


そして、本作はそんな教官とはまるで関係ない12年前に自らが捜査主任として関わった迷宮入り事件のその後を描く。


たまたま、現在の勤務先である警察大学校の近くで起きた老女殺人事件。早朝、野川公園で絵を書くことを日課にしていた老女が押し車ごと橋から転落して亡くなった…事件、事故の両方が疑われる状況だったが、老女の亡くなった様子から殺人事件として捜査が始まる。


様々な、ほんの小さな気づきが無かったために事件は起こり、そして、迷宮入りした。


12年後、全く捜査線上に上がっていなかった女性が全く違うところで殺され、その犯人がこぼした一言で再捜査が始まった。


人それぞれの思いやそれぞれの立場、それらが微妙な生き違いを生み、そこに偶然が重なり、それぞれの役割を振られることで、風通しが悪くなった事件を巡る状況。


それらを1つ1つ紐解いていく本作。事件を解決するだけが警察小説ではないのだなぁと…


だけど、合田雄一郎が登場するなら、やっぱり事件が良いよなぁなどと思いながら、読み終わった。


そろそろ定年を控え、最後のお勤めに就きそうな予感。警察大学校から警視庁に異動になったところで終わる。次は最後の事件かな…


淋しいなぁ…合田雄一郎もそんな年齢か…大学で知り合った親友の加納は最高検察の判事だ。つまり、同級生が判事になるくらいの大学と言えば、東大なんだろうなぁ。警視庁に一般入庁した際にもその経歴が目を引いたような記述もあった気がする。なぜ、彼は警察のお役人でなくて、警察官を選んだのだろう。やはり、親の影響なのか。


いつか、高村薫さんによる警視庁入庁前の合田雄一郎の話を書いてもらいたいなぁ。作品ごとに少しずつ登場する彼の来し方も一挙にまとめて1つの作品になったら、それはとっても嬉しいなぁ。


初めて読んだ「マークスの山」以来、高村薫さんの作品には心に闇を抱えた人々が多く登場する。時には歯止めが効かず、事件を起こす側になることもあったが、今回は違った。行動抑制が取れず、最初に疑いの目が向けられた少年は今回の事件の要にはなったが、犯人ではなかった。ただ、彼の不安定な状況が当時もう少し整理されていれば、別な結果が生まれたのかもしれない。それは合田雄一郎自身が1番強く思ったことだろう。