久しぶりに「新選組」!でもタイトルは「新撰組」。どっちが正しいとかではなく、書き手の気持ちに沿った選択のようだ。
以下、感想。。。
童門冬二さん…本の扉にある著者経歴を見ると社会の第一線で世の中を見つめてきた方だと分かる。そして、本書を読むと幕末にあって攘夷の思いがありながらも時流に翻弄され、いつしか長州を中心とする反乱軍(なんと呼べば良いのかしら…新政府軍とは絶対に呼びたくないし…)と敵対する立場になってしまった新選組が大好きな方だと分かる。
薩摩藩、その中心である西郷吉之助についても、また新選組の獅子身中の虫、伊東甲子太郎についても童門さんの筆致は辛辣で、なんといっても小気味よい。
信用できないタヌキな西郷、遅れてきた田舎学者の伊東甲子太郎。今までいろいろ新選組関連の小説を読んできたけど、こうもあっさり一刀両断な作品はあまりない。その点でもスッキリする。
評伝や評論じゃないんだから、著者の感性に従って、好きなように人物設定して良いのだ!
池田屋事件までは結構時間がかかるが、それを機に一気にスピードが増し、土方歳三が蝦夷に向かう決意をするまでを描く。
生まれ故郷の日野ではいつも笑顔で優しかった歳さんが数年で戦士になって行くまでのお話。新選組は敵より味方の粛清に忙しかったと言われているが、ある意味、時代に翻弄された人々の溜まり場だった新選組にはいろんな人間が入り込み、情報も何も全てが錯綜していたんだろう。
そんな世帯をまとめ上げる能力を有した土方歳三とは、ホントのところ、どんな人物だったのだろう。
身分がどこにでも付いてまわった時代。貧乏で苦労したと言われる西郷吉之助だって、一応の身分は「武士」だ。倒幕運動の中心となった数多くの脱藩浪士たちもみな「武士」だ。
そこにいくら天領の豪農の家に生まれたとはいえ、農民だった土方歳三が登場する。彼の目には、十分な身分にありながら、何一つ為すことの無い脱藩浪士たちがどう映っただろう。
車一心というオリジナル・キャラクターが登場するが、この男に割くページをもっと、新選組内部の葛藤に割いてほしかったなぁと思わないでもないが…