今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

この世界に残されて


今回はオンライン試写会という初めての経験。実は、劇場で観た予告編でちょっとミスリードされてしまって、もっともっと過酷で理不尽な運命を辿る人たちの話かと思っていた。


第二次大戦下でのホロコーストを生き延びた婦人科の医師アルドが職場に復帰し、娘ほど年が離れた少女クララと出会う。この戦争で互いに心に深い傷を受けた2人は、少しずつ心を開きながら、行き来を重ね、まるで本当の父娘のような関係になっていく。


しかし、映画の舞台ハンガリーは徐々にソ連の影響下に置かれ、人と違うことが悪のような時代に突入していた。ここら辺りを予告編では強調していたので、てっきり、2人の穏やかな時間が断ち切られ、翻弄されていく映画なのかと思っていた。


でも、そうした党主導のチェックは入ったが、アルドとクララは父娘のような関係を貫き通す。


失った家族への愛情をどう対処してよいのか分からないクララは、確かにアルドに対して父親の姿を重ねていくのだが、いつしかそれが淡い恋心となっていった。


一方、アルドは戦争で、というより、ホロコーストで妻や子、家族を失った経験から踏みこたえる。あくまでもクララを「娘」として強く抱きしめた。


そして、これからの未来を共に生きる女性を見つけ出す。それまでアルドが自分の全てだったクララは面白くない。クララもちゃんとアルドは父親と同じ立場だと知りながらも、どうしても嫉妬してしまう。それを優しく諭す大伯母オルガがホントに素敵。アルドの幸せを祝福する道を教えてくれる。今までと同じで良いのだと…


両親と妹を戦争で亡くしたクララは一時、孤児院で暮らしていた。それを偶然見つけ、引き取ったのが大伯母だった。当時、ハンガリーでは戦災孤児となった子供を引き取って暮らす人が多かったようだ。互いに傷ついた心を癒やすために、新しい家族になっていった。根底に国の政策があったのかもしれないが、映画でそのことに付いては触れていない。本国のハンガリーの人にはよく知られた事実なのかもしれない…


クララを引き取ると決めた時、大伯母は血の繋がる子供ではあるけれど、心に大きな傷を抱える子供と暮らすことに不安も大きかったようだ。


だからこそ、たまたま診察の時に知り合っただけの医師アルドにクララが懐いた時、偏見を持たずに彼を受け入れられたのだろう。


この大伯母の存在がなにより、アルドとクララの関係を深く温かいものにしたように思う。まぁ、ファンタジーだと言われてしまえばそれまでだけど、当時はそうやって人の善意に助けられて生き延びてきた人は多かったはず。そうした背景を知るからこそ、この映画がハンガリーで多くの人に感動を与え、多くの映画賞を受賞したのだろう。


辛い記憶と向き合い、新しい道を模索する人々の新たなる一歩への励ましの映画とでも言えるのかも。静かに淡々と流れていく時間の中、とても心が暖まる、優しさに溢れた映画だった。