今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

十二人の手紙


井上ひさしさんの著作と言ったら、小栗旬くんが出演した舞台「ムサシ」の原作戯曲しか読んだことはないはずだ。


本作は手紙のやり取りが大きな伏線になって1つの物語に集約されていく手順が見事という感想を耳にして手に取った。


「十二人の手紙」井上ひさし 著(中公文庫)


以下、感想。。。

















手紙には書式というか決まり事が多い。友人同士のほぼメモのやり取りと同じような物は手紙とは言わないし、ましてやそのやり取りを往復書簡とは言わないのだろう。


中学、高校と国語の時間に手紙の書き方を学んだ覚えはあるが、結局、それらが自分の力になっているかと言えば全くなっていない。今でも、年長の方へお礼やご機嫌伺いの手紙を書くとき、例文集のお世話にならなければ、季節の挨拶も書けない。


そこへ行くと、本作の12の手紙の書き手は見事なものだ。


その見事さに、大事なところを見逃してしまう。12の手紙の主たちの生きた背景が、それぞれの手紙の中で語られ、最後のエピローグで集約され、最初の手紙の関係者が決着をつける。こちらは手紙の書き手でなく、筆者の井上ひさしさんの見事なお手並み。


全ての登場人物がエピローグに集約されたわけではないが、それぞれの手紙の書き手と他のエピソードが同じ土地を舞台にするようなちょっとした関係性を持たせているのも面白い。


それぞれの章には、絶対にお近づきになりたくない水原友子のようなあくどい性悪女もいるが、どの手紙からもそれぞれの人生を感じられ、短編小説を読んだような印象が残る。


戯曲を書く人は、文章の流れも小説のものとは違い、話し言葉で語っていくから、もしかすると手紙に近いのかもしれない。


推理小説でもないが、手紙を読みながら、書き手の背景を探ってしまう。ちょっと変わった面白さを味わえた。