今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

おちょやん


朝の連続テレビ小説「おちょやん」…前作のコロナ禍での撮影休止の影響を受け、変則的なスケジュールで放送された「おちょやん」も朝ドラらしい大団円で幕を閉じた。


がっちり全話見た切った訳ではないし、土曜の1週間分総集編でごましてた時期もあったが、おちょやんが亭主を寝取られた辺りからはちゃんと見た(汗)。


おちょやんのモデルは、私たち世代には子供の頃オロナインの看板に登場してた女優さんとして認識されてる浪花千栄子さん。


実際に子供の頃から非常なご苦労をされ、縁あって舞台に立つようになり、喜劇女優として劇団に居場所を見つけた。しかし、その座長の妻となった後は桂春団治の歌を地で行くような亭主の日常に振り回され、挙げ句夫は同じ劇団の新人女優に手を付けた。夫はその愛人に思いがけずできた子供を理由に長年劇団を、自分を支え続けた糟糖の妻である浪花千栄子さんの道頓堀での居場所を奪い、愛人を妻として迎え入れた。


浪花千栄子さんはよほど腹に据えかねたのか、その後、スクリーンの仕事に戻った後も元夫とその愛人とは歩み寄ることなく、彼らへの恨みをバネに活躍され、誰からも「大阪のお母さん」と慕われる存在となった。浪花千栄子さん本人もきっと芯の強さだけでなく、キツさも持ち合わせた人だったろうな。その来し方を知れば、そうなるよね、誰だってと思う。


今回の「おちょやん」で浪花千栄子さんのご苦労が注目され、合わせて、元夫と後妻の名前がクローズアップされた。でも、私は聞いたこともない人だった(汗)。喜劇の本場、関西では知られた人だったのかもしれないけど。


「スカーレット」でも夫の不貞は主人公の大きな転機となった。ただし、あちらの作品は主人公のモデルも元夫のモデルもさらには愛人のモデルもバリバリ現役世代で、ご活躍中なので、製作側にもそれなりの配慮があったのか、ドラマ上では不倫などは描かれず、実話では浮気相手であった弟子だが、夫に好き好きアピールをずいぶんしていたけど、結局は思いを遂げられずに2人のもとを去り、夫婦の陶芸に対する思いの違いが直接の別れの原因として描かれた。


だが、本作はいずれも亡くなっている。もう少し突っ込んでも良かったように思うのだ。不倫の挙げ句、子供を盾に妻を追い出した女が最終回で小さな子供を抱いて、座長の妻をアピールするかのように舞台袖に立つなど寒気がする。


そこに至るまで、つまり居場所を奪われた主人公が出奔した後の元夫と不倫相手の暮らしは暗くジメジメとしたものだった。芝居の本を書こうと机に向かう夫に迷惑にならぬようにと不倫相手が子供を泣かさぬよう息をつめて暮らすシーンが何度か差し挟まれた。もちろん、不倫相手にはセリフもない。


ところが、視聴者とは不思議なもので、生まれてきた子供に「祝福されて生まれてきたのだと言いたい」と、大事な芝居の千秋楽の朝に楽屋に押しかけ、何度でも謝るという言葉を突っ立ったまま言い放った不倫相手に非常に憤慨していたのに、先に書いた不倫相手の不遇が何度も映し出されると、そこに心を寄せる人が現れ、不倫相手が子供と座長と共に普通の暮らしを得たかのような最終回のほんのわずかなシーンに「良かった」という感想が多く見受けられた。


どうして、座長と不倫相手が普通の家族として暮らしていくイメージを抱くシーンの登場が必要だったのだろう。


様々な苦境を乗り越え、飲み込んで生きてきた主人公、千代。その、千代が歩み寄った上で、元夫と不倫相手の謝罪を受けなければならないのはいかがものか。


養女となった春子が苦手なことに投げやりで乗り越えようとしない姿勢を見て、彼女に夢のために乗り越えることを教えたかったのだろうが、まだ小学生の春子に元夫と不倫相手と自分の関係を理解できるのか、それならもっと他の方法で春子を励ますことができたのではなかろうか。史実をなぞりながら、史実に無いことを入れ込んで盛り上げよう、まとめようとするから無理矢理感が残る。


そう考えると様々勘ぐってしまう。不倫相手の役を演じた女優は新人ではないが、あまり世間には知られていないと思う。まだ、メジャー扱いはされていない人じゃないだろうか。私は初めて見た。主人公の敵役だし、不倫相手の言動は女性に嫌われるタイプであるので、なおさら、ある程度名のある女優は受けない仕事だろう。それを受けたのだから、たいした度胸だが、でも、彼女の事務所は最大手だし、本人の度胸より大人の事情が大きく動いたことは間違いないだろう。


同じタイミングで、この女優が敵役にも関わらず、やたらとマスコミの取材や朝ドラの公式サイトで取り上げられていた。これがバーターかなと。でも、驚いたことに「いつか朝ドラのヒロインを演じたい」などとかなり調子に乗った発言もしていた。これは記者が無理矢理引き出した言葉かもしれないが、「スカーレット」で主人公の夫に好き好きアピールをする弟子で敵役の黒島結菜が次回秋からの朝ドラヒロインに決定したと発表されてもいたので、なんだか不穏。


せめて、大手事務所ならこうした大人の事情を勘ぐってしまう私のような人間もいることをしっかり認識して、まだこれからの若い女優の発言はしっかり管理した方が良いと思うけどね。この発言は敵役でもあったので、それなりに悪印象を与えたみたいよ。


なんだか、敵役で苦労したら、次の仕事を保証してくれるNHKって路線?って…


まぁ、黒島結菜はこれまでもメジャーでそれなりの活躍してるし、今回の不倫相手役の女優とは全然ランクは違うんだろうけど、ヒロインとまではいかなくても、数年先にそれなりにポイントの高い役回りを演じることがあれば、「込み」だったことが証明される。それはそれで視聴者は歴史の目撃者になるわけなので、ある意味楽しみではあるなぁ。


特に演技力が優れ、華がある女優なら、自ずと光が当たることはあるのだろうが、もう今や顔も似てて違いがよく分からないような人たちの中で生き残っていくには敵役だろうとなんだろうと注目が集まる役をやることは大切だ。絶対に許されない行いを演じながらも、なんとなく大団円の中でハッピーエンドの一員となってるのは製作側の配慮以外ないだろうな。


なんか、最終週になって、急にみんなまとめて幸せにという方向に話が進んでいき、正直がっかりした。人を傷つけ痛めつけた人間にはそれなりにちゃんと因果が巡ってこないといけないと思うのだ。生まれた子に罪は無いと言うが、生まれたことは罪だ。子に贖罪を求めるのは違うが、そういう結果を生んだ元夫と不倫相手は相応の苦しみを受けなければならないと思う。それなのに、そんなシーンは1つも無かった。


「その節は…」と手をついた不倫相手の謝罪。「その節は」ってなんだ?つまり、不倫相手には全て過去のことになってるのだ。子供は生まれたし、離婚を受けて入籍したし…ってことなんだろうけど。どういう了見でこんな言葉を口にしたのか。


千代ちゃんの居場所を奪って追い出すきっかけになった千秋楽の突然の訪問もその時の言葉も、さらにはそれに至るまでの元夫との駆け引きも、全て恐ろしいくらい計算された言葉と行動だ。これ、やっぱり作り手が男性だと言うことが大きいと思うのだ。だから、ラストで不倫相手が、受け入れられる結末になるのだと思った。つまり、ちょっと儚げで弱そうに見える女性は、千代ちゃんのように強く1人でも生きていけそうな女性に「勝つ」、そして、男の側に立つ。あぁ、「東京ラブストーリー」の有森也実が演じた女を思い出した(怒)。


こういう話は男女の視点は180度違うと思う。せめて、もう少し女性の視点があったなら、不倫相手はあぁも堂々と生きてはいなかったろうと思う。


ただ、史実の方はもっとしたたかな成り行きだったらしい。夫のモデルの破天荒エピソードは、結局、その後妻周辺から出たんだろうなと思うものばかりで、妻が重荷だったから不倫したとか言うセリフも出どこは他に無いように思うし、なぜ今ドラマ化なのかと言えば、モデルとなった当人たちが既に鬼籍に入ったということなのかもね。浪花千栄子さんがお亡くなりになってからの年数を考えれば、もう少し早くドラマ化しても良かったように思うけど、そこにはご健在の人への配慮があったのだろうな。


そして、ドラマの内容的には最終週の締め方でモヤモヤが残り、それが喉に刺さった小骨のような…


杉咲花さんは本当にご苦労さんでしたって感じ。ただ、やはり、あの若さで40代は少しというか、かなり無理があったかな。そして、これは技術的なことなのだけど、杉咲花さんは涙のシーンになると、セリフがしどろもどろになってしまう。これは前から気になっていた。涙を流しても、号泣してもセリフはセリフとしてちゃんと滑舌良く語らなければならない。俳優さんはご飯食べながらでもちゃんとセリフを喋ることについてはよく言われてるが、それは泣きのシーンも同じ。


これは演出の問題でなく、杉咲花さんご自身の問題だ。他のドラマでも泣きのシーンで何を言ってるのかハッキリしない場面を見たことがある。まだ若い女優さんだから、今後どんどん吸収して、表現力と共に技術力も磨いていってほしい。なにしろ、着物での立ち居振る舞いは本当に清々しく美しい姿だったのだから、あとはそれを後押しする技を磨けば文句の付けようもない。


とにかく、物語的には父親や義母に悩み、乗り越え、受け容れる寛容さと芯の強さにいつも感動させられた。ただ一点、居場所を奪われた行はどうにも許せなくて、彼女の方から歩み寄らなければドラマ的解決に至らなかったところなどは非常に腹立たしかかった。


何度でも謝ると言った女が頭を下げるシーンは結局1度しかなく、それも妙に堂々と背筋を伸ばして、ちゃぶ台の向こう側で手をついただけだった。確かに涙をためてはいたけれど、涙も流すこともなく、それが心底詫びる人の姿なのか。そんな不十分で自分都合の謝罪で許されてるかのような描き方は、どれほど人を傷めつけても簡単に許されるという大きな誤解を与える結末だった。


ラストの大団円が無理矢理さを強くした感があり、「朝ドラ」の限界点を見た気がする。やはり、モデルのいるドラマは大変だな。いろんなところに忖度しなきゃいけないし…


次の清原果耶さんの朝ドラが始まったが、ボチボチ皆さんの感想が出てきたら見てみようかと思っている。


最初は千代ちゃんの父親に嫌悪感を強くした。「スカーレット」でも主人公の父親には寒気がした。それがいつの間にか愛情深いがための行動だったかのように描かれ方が変わっていき、モデルのいる役は大変だと思ってみていたが、今回は確かに父親は最低だと思ってたけど、途中から登場した元夫と不倫相手のコンビはそれ以上の嫌悪感だった。千代ちゃんの活躍を見られないのは残念だけど、あの2人を見ないで済むのはなによりだと思ったほどだ。これほどの嫌悪感は久しぶりだ。これを役者力だと思うのは大間違い。誰が演じてもこの役は不愉快だ…まぁ、この程度の不快感で済んだのは変に上手い役者をキャスティングしなかったおかげかも。


杉咲花さんの素晴らしい頑張りがあったのに、とにかく不愉快が先に立つドラマだった。花ちゃん、年齢相応の明るいドラマで見たいなぁ。とりあえず、毒を吐いたのでちょっとはスッキリした。当然の罪と罰くらいはちゃんと描いてほしかったなぁと最後に思う残念なドラマだった。