今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

新型コロナからいのちを守れ!理論疫学者・西浦博の挑戦


新型コロナ感染症が日本国中を巻き込む大問題になった時、「人的接触8割削減」を呼びかけ、一躍表舞台に飛び出した研究者、西浦教授。


コロナ対策に当たった専門家と言われる尾身先生を始め、その道の権威たる重鎮の中でその若さは目を引いた。多分、物凄く優秀で、デキる人だからこそ、そこにいるのだろうが、彼の言う「8割削減」が耳慣れないことから、彼の仕事ぶりの評価というより初めて耳にした言葉をもじって「8割おじさん」などちょっと失礼な呼称が話題になった。


その西浦教授が当時を語る書籍を手に取った。


「新型コロナからいのちを守れ!理論疫学者・西浦博の挑戦」西浦博 著/聞き手 川端裕人(中央公論新社)


以下、感想。。。

























新型コロナ感染症は海を隔てた中国でにわかに巻き起こった感染症…これまでもことさら力を入れて防疫に努めたわけでもないのに、それほど大きな感染流行に至らなかったSARSやMARSの流行があった。当時、最前線で診療にあたった医療従事者の皆さんや研究者たち、そして、患者となった感染者の皆さんを除いて、ごく普通の人々にはどこか対岸の火事の印象でしかなかったはずだ。


だから、今回も最初の発信地が中国だったことから、同じような印象で捉えていた人が多かったはずだ。むしろ、オーストリアの大規模な山火事で焼け出されたコアラを始めとする動物たちへの関心の方が大きかったと思っている。


ところが、対岸の火事だったはずのコロナは圧倒的なスピードで、世界中が注目する日本の最大の問題になった。それをもたらしたのが、豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号だった。


その最初の取っ掛かりから、西浦先生は感染対策の最前線で奮闘されていた。テレビで見る西浦先生は感染状況の緊迫度合いとはマッチしない丸顔の穏やかそうな青年研究者だった。その彼の口から聞いたことのない言葉が飛び出す。それが「人的接触8割削減」だ。


8割を削減するってどのくらい?そんなこちらの疑問に気づいたのか、西浦先生たち研究者の皆さんが提示してくれた内容を元にワイドショーが「通勤をせずにテレワークにすると電車内での接触が削減され、買い物の回数を減らすと接触が削減され…」という図式をボードにして説明していた。


なるほどなぁ…と思うことばかり。研究者の皆さんが提示してくれたことは、普通に生活していた私にはとっても新鮮で(既にこの当時もコロナで苦しんでいた方もいたのに不謹慎極まりない…)、興味深く見ていた。


岡田晴恵が登場してからはちょっとテレビからは離れたけど。感染対策の現場に必要とされなかったことに納得がいかないのか、なんだかピントがズレた話をムキになって語る彼女は鬼のように見えた。多くの第一線の研究者が影に日に戦う中で、その場に求められなかった人達の不満がテレビでぶち撒けられ、それに翻弄された人達が、「真実」を公開しろと迫る。


その場に求められなかった人達は、研究者としてというより、同じ研究をしてる人がいるなら、そちらを選ぶ的な基準でふるい落とされたようにさえ思う。こうした、パンデミックでの対応はいくら真実を語ろうともスタンドプレーに走る人では戦えない。多くの考えを理解し、取捨選択ができ、調整のできる人…それはけして妥協ではなく、前進のための調整だ。


本書にも数名、スタンドプレーに走る人の名前が登場する。これらの名前は覚えておいた方が良さそうだ。コロナはまだ続く。新しい生活様式はもうすでに新しくはなく、日常となるのだ。その中で、こちら側も翻弄されるだけでなく、誰が私達のための「調整」をしてくれる人なのか、しっかり見極めるために。


尾身先生への感謝とその研究者としての矜持に触れる本書。読んでおいて良かったし、ワイドショーで聞いた話を「知識」だと思い込んでる人は、その意識を一旦払拭して、読んでおいた方が良いと思う。