今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

メイド・イン・バングラデシュ


「メイド・イン・バングラデシュ」を岩波ホールにて鑑賞。7月末の岩波ホール閉館を前に最後の2作となった。本作は確かアカデミー賞にも外国語映画賞でノミネートされてたように思う。最近、映画の話題は大作しか情報収集出来ていない。


今や日本だけでなく世界中でファストファッションは衣料品業界で大きなシェアを占めている。良い素材を用いて、コスパ最高の衣料品を届けてくれる。だけど、安い服は安く作られてるわけで、なぜそれが可能なのかはこの映画を観れば一目瞭然。


男尊女卑が未だ根強く残る社会にあって、貧しい暮らしを支えるために女性は働きに出る。それだって、日々やっと生きていける状態だ。でも、女房が時間に追われ、厳しい就業環境に置かれ、死ぬ思いで稼いだ僅かな金も暮らしを支えるためでなく、その日暮らしの夫の遊び賃になってしまう。


女は黙って働けば良い。そういう発想なのだろう。そうして働く中で、女性たちは自分たちの置かれ立場の理不尽さに気づく。気づいても泣き寝入りしか方法の無かった一世代前の女性たち。しかし、世界は大きく変化を遂げている。今まではどれほど高圧的に接しても大人しくただ従順だった女性たちが自分の生活の改善、職場の変革を求めて立ち上がろうとする。


衣料品工場の現場で少ない賃金で長時間の残業をしながら、ミシンを踏む女性やアイロンがけをする女性がいる一方で、彼女たちが団結して職場での地位向上を計るために立ち上がろうとするのをサポートする女性がいるし、彼女たちの労働組合設立申請を受け取る窓口で働く女性もいる。


強い男尊女卑思想や身分、社会の不備で生まれる貧困による女性たちの立場の違いが露わだ。


過去にも立ち上がろうとした女性たちはいたが、労働組合設立が叫ばれると工場は閉鎖され、失業を余儀なくされる。仮に他の工場に移ろうにも1度組合活動に身を投じるとブラックリストにその名が刻まれ、一切の就業の機会を奪われる。だから、みんな押し黙る。


裕福な人をさらに裕福にするための女性たちの就労。彼女たち自身が働いて幸せを得ていくための就労ではないのだ。


まだ社会が混沌とした中での新しい立場を確立する闘い。日本の何十年も前の姿がそこにある。


日本でも非正規雇用の問題は折りに触れ、報道されてきた。コロナ時代に突入し、さらに問題は深刻化し、雇われる方だけでなく、雇う側にも様々な互いに相容れない問題が起きている。


どこを終着点にするのか。


この映画も労働組合設立申請を受理してもらうまでで終わった。女性たちの声を聞く気のない役所の審査官は差別的な問題発言を主人公に録音され、仕方なく受理したような形だ。誰にでも公平な審理が実施されるようになるのもきっとずっと先。主人公にはこれからさらに職場である工場との全面対決が待っている。


最初の1人が全ての始まりではあるけれど、そこにはとてつもない精神力と決意が必要なのだと映画は訴えている。