今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ミステリと言う勿れ 劇場版


確か、月9で放送してたドラマ「ミステリと言う勿れ」。21歳のモジャモジャ頭の大学生が推理もせず、捜査もせず、ただ喋ってるだけで事件を解決してしまうストーリー。放送初期段階では、モジャモジャ役の菅田将暉は「違う!!」と言われてた。渡部豪太さんこそモジャモジャ久能整だと…


確かに原作漫画の単行本の表紙に描かれてる久能整は顔も雰囲気も、もちろん髪型も渡部豪太さんそのもので、それを見た時の驚きは今も忘れない。


宇宙兄弟」のモジャモジャ兄ちゃんを小栗旬が演じた時に、あれは大泉洋だろう!と騒がれたのと似ている。


でも、1クールのドラマ放映中にそうした外野の諸々をモジャモジャ菅田将暉は打ち負かした。そして、今やモジャモジャ頭は菅田将暉の代名詞にもなった。


久能整は、謎解きだけじゃなく、いろんな事を喋る。話しの内容からとても優秀な頭脳を持ってることも分かるが、ただ優秀なだけじゃなく、着眼点が面白い。ある意味、屁理屈に近いんだけど、単なる屁理屈として片付けるには惜しいその着眼点。


そして、やたら突き刺さる言葉を放つ……らしい。らしい…というのは、少なくとも、私にはそれほど刺さらなかったからだ。「僕は常々思っているんですがね…どうして人は…云々」と語り出す。その内容が見る者の心に刺さるらしい。だけど、少なくとも私にはそれほど刺さらなかったし、屁理屈言いだなぁ〜くらいにしか感じなかった。


相方がハマって録画までして見てたので、私もつき合って見るようになり、まぁ、変な今どきの若い俳優並べた恋愛モノよりは見飽きないでいられた。


その久能整くんの活躍が映画になるらしいとは聞いたが、「ふ〜ん」としか思わなかった。それが公開を待ちわびるほど楽しみになったのは、ひとえに松下洸平くんが出演すると聞いたから。


公開が告知され、松下洸平くんの出演がその役名と共に発表されたが、映画になるお話は漫画の初期に連載された、原作ファンの間では評判の通称「広島篇」だと… ネットでネタバレありのあらすじを知り、これは松下洸平くんがかねてより待ち望んでた系の役どころじゃないかと、急遽、「広島篇」を掲載してる原作単行本3冊をブックオフでゲット!!


しっかり原作チェックしたんだけど、松下洸平くんが演じる「車坂朝晴」が今一つ印象が薄い。原作を知る人で、松下洸平は役名が思い出せないけど、町田啓太が演じた役なのかと思ったという感想をつぶやく人を何人か見かけた。そうなのだ。これまでのあまり捻りのない真っ直ぐな役のイメージからすれば確かにそうなのだ。しかし、ここ最近は本人も「物凄く悪い役」をやりたいと公言していた。車坂朝晴は、その思いに少しは答えられる役どころではないか…


あとは、原作を読むかぎり物凄く平坦な描かれ方をしている朝晴という人物を話の流れを損なわず、穏やかな表情からは予想もつかないところに着地させ、見る者に「何?コイツ、最低じゃん!」と思わせる芝居を見せられるかだ。いや、多分、製作サイドからはそれを求められてのキャスティングなんだろう。


これは楽しみだ。原作本からするに出演時間は短いだろうが、おそらく相当のインパクトを与えられる役どころ。公開日が待ち遠しくなった。


そして、待ちに待った公開翌日。品川Tジョイで鑑賞。


終盤、事件の真相が一気に明るみに出るシーン。「汐ちゃん、僕に嘘をつくなんて(おぼろげな記憶…)」とその場にそぐわない穏やかな表情をして汐路に柔らかな声で訴えかける朝晴……自分が犯した罪を暴かれても顔色1つ変えないのに、汐路が自分に嘘を伝えたことには強く嘆くその表情。穏やかな表情のまま、柔らかな口調のまま、むしろ、責め立ててる。これぞ、松下洸平の真骨頂。。。


朝晴の祖父と祖父と共に悪事に加担していた税理士は、先走った朝晴を責めるが、朝晴は祖父たちの罪もあっけらかんと披歴する。祖父たちは狩集家の一族の闇を覆い隠すために代々受け継がれてきた「為すべき事」を「悪事」と自覚して、犯罪に手を染めてきた。


でも、朝晴は違う。子供の頃から、車坂家に生まれた者として「為すべき事」を「使命」として心に体に刻んできた。だから、それが常軌を逸した「悪事」だなどと思ったことすらない。長い年月をかけて紡がれてきた狩集家の掟をただ守っただけ。朝晴が継承するずっと以前からひっそりと受け継がれてきたものを守っただけ。警察に連行されていく朝晴が叫ぶ「みんな、やってきた!」と。


なかなか鳥肌もんの芝居だった。


表情すら変えない、ほぼ目だけの芝居。何だろう、この人。この松下洸平って人、全部持ってっちゃう芝居をする。


映画の最初の方でモジャモジャ頭が語る「セメント」の話。まさに朝晴のことだよね…


とりあえず、この映画は久能整くんの活躍が描かれる映画なので、あくまでも「犯人」は主役にはなれない。でも、たとえ、わずかな時間でも久能整を演じる菅田将暉くんに対等に向き合うことができ、呑み込むほどの演者でなければ話は成立しない。そうしないとただの茶番劇になる。


汐路のストーリーがメインであるから、「犯人」としては事件が終われば姿を消すが、その「犯人」にもう少し力点置いて、ちょっと眠くなった前半を軽くして、後半部分をもっと重厚に作ったら良かったのに…と思った。


汐路役の若い女優さんを熱演だったと褒める評価も結構見たが、私には以前小栗旬くんの映画に出た時の方がよっぽどインパクトあったし、なんだか普通に及第点の女優さんになっちゃったなぁ〜とちょっと残念だった。


エンドロール後にというよりクレジットに大隣署の3人組の名前が登場し、ラストは大隣署から海の上の我路くんで終わり。
こういうラストはドラマへの続きを示唆してるように感じられて、結構湧いていた。


私は別にどうでも良いが…ハリウッド映画など、さも続編ありきみないな終わり方をよく採用するので、こんな終わり方は普通だ。そして、それらにはけして続きは無いんだけれど…私も本作はそれで良いと思う。原作はまだ続いてるらしいので、ネタはあるんだろうが、このまま終わりで正解じゃないかな…


久能整を演じる菅田将暉メインなので、そちらが評価の対象に上がるのは当然で、松下洸平の芝居が語られることは少ないだろうが、私は良い物を観せてもらえたとちょっと感動した。


とりあえず、2回目を観てこようと思う。