今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ヒトごろし


新選組関連書籍、再び!思いの外、早く感想を書けることになった。


単行本、優に2冊分以上はある1080ページを超える超大作。図書館の返却期間までに返せるかどうか不安になるほどの分量。主婦にとっては自由の効かない週末を挟みながらも4日で読み切った!


我ながら、凄い集中力!まぁ、それほど面白い小説だったということ。


こんなに集中して読み切った充実感を味わった読書は久しぶり。分量は違うけど、初めて真保裕一さんの小説を読んだ時の感覚を思い出した。「ホワイトアウト」、あれはまさに!船戸与一さんの「蝦夷地別件」もしかり!


『ヒトごろし』京極夏彦 著(新潮社)


では、以下、感想。。。










息をするのも惜しいほど、ただ文字を追う…こんなふうに本を読んだのは本当に久しぶりだ。ここ最近、様々、新選組関連の評論やら小説やらを読んだけど、これほど夢中になれる作品は無かった。


初めて読んだ京極夏彦作品。「姑獲鳥の夏」や「魍魎の匣」は映画化されたので知っていたが、確かテレビで放送されたものを横目で見てるような状態だったので、あまり細かい内容まで覚えていない。古い時代の人間で無い生き物のお話を書く小説家だと勝手に思い込んでいた。


この度の作品は、新選組・鬼の副長と恐れられた土方歳三を主人公に話は進む。彼は、ヒトでなしの人外(にんがい)として、登場する。


小さな子供の頃、姉に手を引かれて歩いた小道。向こうからやって来た男女は着物の乱れも構わず、一目散に走ってくる。何かに追われているのは子供の歳三にも一目瞭然。


そして、幼い姉弟の目の前で、男女は軀となる。亭主の元を逃げ出した女は、男と手を取って逃げ出すが、ここで追いつかれた。そして、血しぶきを舞い上げて息絶える。


真っ赤に吹き上げた血しぶき。歳三はその美しさに心を奪われる。ヒトの命を刀の一振りで奪う時、これほど美しいのかと…そして、またあの血しぶきを見たいと思う。誰かの手に依るものでなく、自分の手で。ヒトごろしに心を奪われる。


だが、ヒトごろしはどんな時代になろうと、どんなに世が乱れようとけして許される行為ではない。その代償は大きいのだ。ただ、殺したいから殺すことは許されない。


なら、どうすれば良い…


歳三は許される立場になってヒトを殺すことを考える。その行き着く先が新選組だ。自分が誰かを担ぎ上げ、その者を支えるために、法によって追求のないヒトごろしを考える…


歳三に銘刀を授ける形になる女、涼と京極夏彦さんの他作品「ひとでなし」に登場するらしい乞食坊主以外の登場人物は実在する人々で、当然ながら、歴史の流れもきちんと現実に即している。そこは「大河ドラマ」とは違う!


実在の事件、事変の裏にヒトごろし歳三がどういう手を打って、自分の欲望を満たし、事件を成立させたのかを追っていく。


土方歳三は章ごとにラストで自分の名を告げる。どんな時も欲望のぶれない土方歳三だと示しているかのような…


事件の顛末を語る歳三は、べらんめい口調。そのセリフ場面はまるで歳三が目の前で喋ってるかのようにイキイキと描かれる。話の内容は恐ろしい魂胆のタネ明かしなんだけど…


でも、世の中、莫迦ばかりで歳三にとっては仕組みやすい。これほど、手応えないとそのうちやり切れなくなるなぁと思っていたが、結局は彼は多くの人間を救い。それほど人外としての欲望を満たせたとは言えない最期を迎える。


いろいろな本を読んで、本当に頭の良い人、いや頭がキレる人と言うべき人物だったのだなぁと思う。最初から武士の家に生まれ、機会に恵まれたら、大変な名将になっていたことだろう。


ただ、時代が閉塞感漂う幕末の形式化された武家社会では、余程の身分でないと成り上がれなかったろうから、ある意味、田舎の豪農の家の末っ子に生まれたことが彼には幸運だったのかもしれない。世に出るチャンスを1番得やすい「自由」を手にしていたのだから。


それにしても、人外のヒトごろしとして土方歳三を設定するなんて、京極さんも面白い。さらに、人斬り沖田総司も御同様に描くとは…新選組ファンを敵にしても良いという覚悟で筆を執られたか(笑)


でも、これだけ面白ければ、誰も文句は言わないだろう。なにより、人外のはずの土方歳三がカッコいいのだから。


同じラストを用意することで、少し話のまわりがくどく感じる部分もあるけど、歳三の心の内を語る部分などはなんとも目の前に歳三がいるようで。。。


これ、映像化されないかなぁ。目が怪しい演技は誰でもできるものじゃないけど。さすがに「大河ドラマ」でヒトごろしの話は出来ないだろうから、時代劇の時間で、お願いしたいなぁ。


長編でかなり集中して読んだので、正直疲れた。少し、読書は休もうかな(笑)