今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

歳三の剣


小松エメルさん。著者プロフィールを見ると母方にトルコ人の祖父を持つとある。一風変わったお名前は、そのトルコの言葉から取ったそうだ。


トルコ語で「強い、優しい、美しい」という意味の言葉を名に持つ作家はまさにその意味の通りの1人の男を描いてみせた。


「歳三の剣」小松 エメル 著(講談社)
以下、感想。。。
















小松さんの著作はこれで2冊目。1冊目は「総司の夢」。


新選組関連小説や史談、評論を読み続けてはいるが、隊士個人の小説となると土方歳三以外では、斎藤一の1冊しか読んだことがなかったが、この「歳三の剣」を知った時、たまたま目にしたレビューでまずは「総司の夢」を読んでから、本作を読んだ方が良いという記事を見た。


どちらもまだ文庫化はされていないようだから、図書館を頼り、まず「総司の夢」を読んだ。


タイトルから志半ばで倒れた沖田総司が抱いた夢を語る小説かと思っていたら、ホントに総司が見た夢の話だった(笑)。全部夢の話のワケはないけど、彼の見た夢が大きく物語に関わっていた。


そして、本作。確かに「総司の夢」と同じ時間を、今度は土方歳三の目線で語るので、時折、両者が交錯する。そんな時は「総司の夢」を読んでいたおかげで、スッと物語に入っていける。


前者「総司の夢」は沖田総司に視点を置いて、彼の物語を語る。続いて「歳三の剣」では、同じ出来事も土方歳三の視点で描き、2人の立場の違いを明確にする。まるで、連作小説のようだが、それぞれがそれぞれの主人公の一生で終焉を迎える。


これをそれぞれの主人公の生涯にまで目を向けず、同じ時だけを1つの物語に構成し、1冊の連作小説にしたのが、湊かなえさんの一連の連作小説だ。


今回の小松さんの小説は、スケールの大きな連作小説のようだ。


「総司の夢」で近藤勇という人物の造形を既に読んでいたから、本作でそこに引っかかることはなく、「鬼」を「鬼」として捉えることができた。だけど、なぜ鬼になったのかは…近藤さんの言葉だけではちょっとまだ足らないかなぁ…


私が土方歳三好きということを差し引いても、前作より本作の方が圧倒的に面白かった。読み終わるのが残念だったくらい。とにかく、カッコいい土方歳三だ。あれこれ悩みながらも悔いを残さないように駆け抜ける姿は「カッコいい」というほかに表現のしようがない。


分量的にはほんの少しずつだけど、魅力的な隊士たちがずいぶん登場してきた。


小松さんはこのまま新選組隊士を何人か描いていくのではないかと思ったり…最後には近藤さんの生きる理由も彼自身の口から語る小説を書かれるのではないかと思ったり…


そして、ふとこれから読もうと積み上げていた文庫を見上げると「夢の燈影(ほかげ) 新選組無名録」という小松エメルさんの本が!こちらには近藤さんでもなく、土方歳三でもなく、沖田総司でもない隊士たちの物語が収録されているらしい。ブックオフでまとめて購入したので、すっかり見落としていた(汗)。こちらも楽しみだ!