今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

孤塁 双葉郡消防士たちの3.11


2020.3.11…あれから9年の月日が流れた。どんなに抗おうとも、時はけして止まらない。これほど誠実で残酷なものない…


「孤塁 双葉郡消防士たちの3.11」吉田千亜 著(岩波書店)


「孤塁」…唯一つ残った砦。助けのない孤立した砦…という意味だそうだ。


まさにあの時の双葉郡を活動拠点にする消防士たちがいた場所…


以下、感想。。。

















東日本大震災以降、白い防護服は見慣れた物となった。しかし、あの時、そんな物がこれほど必要になるなど、誰も考えていなかった。


消防はある意味1番住民の暮らしに近いところにある。警察や自衛隊は何か起きてから動く。消防は何か起きたその瞬間には始動している。火事も事故の怪我人や病人の搬送も時間との戦いだ。誰より人命の重さを知り、何より人命を重んじてきた人たちの命が軽んじられた、あの時の証言を丁寧に拾い出した結果の本作。


地震により未曾有の津波被害。まず彼らは少ない人員をやり繰りしながら、懸命に要救助者の救出と搬送に力を尽くした。


しかし、時間が経つとその活動に変化が起きる。福島第一原発での津波被害に端を発した火災や怪我人の搬送、並びに水の確保へと…


装備も手持ちの装備にさらに原発災害用装備が加わる。「原発は安全だ」という東京電力の認識をベースにした福島第一原発を地元とする双葉郡消防のこれまでからは考えられない業務が次々と与えられる。


東京電力自体も混乱している最中、消防はそれらの指示に右往左往することになる。


慣れない装備をし、慣れない場所で思いもよらぬ形で活動しなければならなくなった消防士たち。1人1人に面談し、少しずつ当時の様を記憶から呼び起こしてもらうまでの作家としての戦い。


読む中で、慣れない環境に体調の変化をきたす消防士たちが登場する。彼らが目眩を起こすと読む私もフラリとし、彼らが吐き気をもよおせば私も胸がムカムカとしてきた。


東京に住んでいた私でさえ、本書を読みながら、あの揺れを思い出し、原発事故当時の緊張感を思い出し、気分が左右された。


そういう事態を当事者たちに語らせたのだから、作者の覚悟は並大抵のものではないと強く感じた。でも、その覚悟が無ければ、彼らの語った「あの時」はどこかに埋もれてしまう。


現場から遠く離れている私にはやはり現実は分からない。こうして、伝えてくれるものが必要だ。確かに「忘れない」と心では思っている。でも、思ってるだけで、何もしなければきっと心の蓋は閉じていく。