今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

余命10年


2021年上半期、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」。主人公・百音(通称モネ)が出会った運命の人、菅波光太朗。主人公よりも存在がクローズアップされ、「#俺たちの菅波」なるハッシュタグが作られ、医師・菅波が出演した直後はTwitterのトレンド上位にランキングされるという現象が大きな話題となった。


ドラマの内容も落ち着いてきた頃、来春の公開を発表された映画「余命10年」は主人公と共にダブル主演として、菅波役の坂口健太郎が出演すると発表された。



話題の俳優の主演作品。特報は余命宣告を受けたヒロインがその時間を必死に生き抜く姿を映し出し、彼女の輝いた一時に寄り添った恋人が坂口健太郎くんらしい。じゃあ、公開前に読んでみよう…


「余命10年」小坂流加 著(文芸社文庫NEO)


以下、感想。。。

















山歩きが趣味の両親が山に咲く花から名付けた茉莉。茉莉花から付けられた名だ。姉は桔梗という名前だから、少女コミックの登場人物みたい。


でも、お話の内容はそんなキラキラしたものとは全く違う。


タイトルの通り、茉莉は余命10年を宣告されている。っていうより、茉莉の病気は遺伝性疾患で家族のうち誰に遺伝するのか誰にもしないのか、それすらも分からない、そして、発症して初めてその病気が自分に遺伝したのだと分かる。治療法も確立されておらず、投薬も病気を治療するのではなく、対症療法としてだ。担当医が言うには、発症後10年を生きた人はいないのだ。大学時代に発症した茉莉は今、余命10年を生きている。


発症した直後は静かに落ち着いて日常生活を送れるようになるまで、つまり、検査数値に安定が見られるまで入院を余儀なくされる。何度も入退院を繰り返し、最初の数年は過ぎていった。


やっと退院できた時、絵を書くことが好きだった茉莉は、漫画の同人誌を書く同級生の早苗のおかげでコスプレをして、漫画を書く日常を得ることができた。


茉莉は、20代の今、人生で1番輝いている時に、人と極力関わらない道を手探りで進んでいった。期待を持つことが、希望を持つことが、結局10年先の未来に繋がらないことが分かっている以上、少しずつ断ち切ることを準備しながら生きるしかない。


病気は確実に茉莉の体を蝕んでいく。ここまでと決めた最後の3年を迎える前に彼女は線を引いた。夢から希望から、楽しみから、友から、そして、心から愛した人から…


ほんの短い時間を共にした愛する人は、姉の夫の転勤先がかつて暮らした街だったことから、偶然に出会った。小学校の同級生。茶道の家元のたった1人の後継者だった少年は、周りの期待に押しつぶされ、茉莉と出会った頃には厳しい稽古と家から距離を置き、楽しいと興味を持ったことに気ままに時間を費やして暮らしていた。


お互い、心に大きな傷があった。惹かれるのは当然だったのかもしれない。しかし、残り時間のカウントダウンが茉莉の心に響き始め、痩せ細っていく自分を見せたくないと、側にいようとする同級生との関係を断った。病気のことも知った上で、最後まで寄り添うために結婚を決意した彼を拒むことで、これからも生き続ける彼をちゃんと生かそうと思った。


それからは、終わりの日をベッドの上で待つ日が続いた。


3年経ち、茉莉の通夜に羽織袴の彼がやってくる。彼もただ、ひたすら祈り続けた3年で、誰もが認める家元の後継者となっていた。


愛する人との日々に自ら終わりを告げること。愛する人のために考えに考えて、これからも生きる人の幸せが自分の幸せと置き換えて。


著者は、自分も余命を持って生きる人だった。もう既にこの世には亡く、物語は彼女の思いも込められているはず。自分の終わりを見つめながら、これからも生きる人の幸せを祈る。そうして、折り合いをつける。


私にはできない。すごい覚悟を感じた。映画の特報で観たシーンは小説の流れとは少し違うような気がするが、きっと、著者の思いはちゃんと茉莉を演じた小松菜奈さんに通じてると思う。


来春の映画を楽しみに待ちたい。