今日も徒然、中洲日記

ほどほどに映画が好き。ほどほどに食べることが好き。日々気づいた事を綴ります。

ザリガニの鳴くところ


コロナで世の中がすっかり変わってしまった頃、大好きだった映画館への足が遠のいた。


映画館にはいろんな人がやってくる。いくら映画館は換気が十分と言われても、それを覆すほどの飛び抜けた輩に遭遇してから、どうしても観たい映画のみをとにかく空いてる時間帯に鑑賞するようになった。


だから、年間100本近く鑑賞していたのに10本も観ない状況に。


そんな中で、シャンテで上映してると耳にした「ザリガニの鳴くところ」。タイトルからはストーリーの想像すら出来ないような…(汗)。昨年の上映作品の中では結構評判は良かったようなので、映画館では観ないけど、WOWOWなどで放送する前に原作があるなら読んでみようと…


「ザリガニの鳴くところ」ディーリア・オーエンズ 著/友廣純 訳(早川書房)


以下、感想。。。




















小説としての「出来」は、私のような者が言ってもよいのかどうか…面白くないし、いろいろと穴が目につく物語だった。


最終盤、完全にお涙頂戴的なストーリーに変換された辺りで、マジで涙を誘われたが、話があまりにも出来過ぎてる。そう、その出来過ぎたストーリーを追っていくうちに、ラストのどんでん返しに気づいてしまい、一気にがっかりしてしまう。


序盤、まず物語の舞台となる沼地の村について、全く想像できず、それらの知識のない人間にはかなり読み込むのが難しい。そして、そこがいわゆる被差別地域であることがわかってきて、さらには物語の時代がまだ有色人種差別が横行していた頃となると、もう全く時代背景や土地柄については追いつけなくなる。


とりあえずはいろいろ考えないようにして「そんなものなんだ」と無理矢理納得させて読み進めていくと…


貧被差別地域での貧しい暮らしの中で、酒を喰らい、家族に暴力をふるう夫に追い詰められ、子供たちを残して家を飛び出す母親、そして、沼地での暮らしに限界を感じ、家族の元から生きるために逃げ出す年上の子供たち。暴力的な父親と最後に残されたまだ小さかったカイヤ。


ところが、その父親もある日フラリと姿を消す。まだ、大人の庇護が必要なカイヤが1人沼地の小屋に残される。


ただ、淡々とカイヤの日常が描かれ、「孤独」がカイヤの心を蝕んでいく様子が語られる。唯一心を許していたテイトという青年は沼地の豊かな自然を学ぶために都会へ進学してしまう。


必ず帰るというテイトの言葉は、家族に置き去りにされたカイヤには信じられない。そして、1度都会で自分の目を啓かれたテイトはあらためてカイヤの異質さに打ちのめされ、彼女の元を去ってしまう。


つまり、なぜカイヤは沼地の暮らしの中、大人の庇護もなく、1人で人目に触れず生きられるのか、その実態を自分の目で目撃してしまったテイトの衝撃と恐怖は理解できる。テイトだって、まだ世間を知らない子供だったのだ。頭では分かっていたことも現実を突きつけられると呆然としてしまうのは人間の性(サガ)というべきものだ。知らないものへの恐怖。


こうして、再び「孤独」と共に生きることになったカイヤは、街の有力者の息子と関係を持つ。騙されている予感はありながら、孤独に勝てず、男の甘い言葉にすがりつく…


この辺りまで、物語は本当につまらない。


物語は、カイヤに甘い言葉を投げた男の遺体が沼地で発見されるところから始まるので、事件の推移とカイヤの孤独の過去とが並行して進んでいき、カイヤが事件の容疑者として捉えられるところで、1つに繋がる。


やっと、いろいろ見えてくるが、実はカイヤの殺人犯として公判中の描写で初めて事件のあらましが分かってくる。そこに行き着くまで、事件当日のカイヤの行動は大まかな事しか描写されない。公判での証言でカイヤがどんな行動をしたのかがはっきりしてくる。


正直に言えば、小説としてはどうなんだろうな、この手法は…と思った。


映像作品のプロットを読んでるような感触だ。映画になるくらいだから、ぴったりかも。


そもそも、誰の手助けもない沼地の小屋のような家で子供が1人生きていけることが非現実的だ。そこに手を差し伸べた少年がいたことも驚きだし、彼の教授によって読み書きも出来なかった少女が格段の成長を遂げ、沼地の生物の観察者として類まれなる才能を発揮していくなど、すでにファンタジーだ。


だから、ファンタジーのままで良かったのに、ラストでは醜い現実に引き戻される。街の誰にも彼女を差別し、侮辱し、奇異な目で見てきた後ろめたさがある。だから、彼女が殺人犯と疑われた時、全て、皆の思い込みで彼女が追い詰めらてしまったことに必要以上の呵責を感じとってしまったのだ。そこに「真実」は埋もれてしまった。


「真実」はカイヤの心の中にひっそりとしまい込まれ、彼女は残りの人生を幸せに全うする。そして、一時の別れによってカイヤを傷つけた過去を最後まで償い続けたテイトは、カイヤの死後、その「真実」にたどり着く。


テイトにとって、どれほど残酷な結末だろう。結局、カイヤに与えた「孤独」へのしっぺ返しが全てをなげうってカイヤと共に生き抜いた後に明かされる。


「孤独」を与えた復讐で殺されるのはもっと嫌だけど、テイトへの仕打ちも恐ろしいものだ。「孤独」は人を鬼にする。ザリガニの鳴くところには行きたくない。